一 悪人

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 男はやっとマフラーをほどいた。 「よお、じいさん」  耳元で怒鳴られて、老人がびくりと体をふるわせた。 「……うう、う?」 「おい、おれを見ろよ。かわいい孫の顔を忘れたとは言わせねえぜ」  男は自分の顔をぐいと老人の顔に近づけた。 「お、おまえ………」  ほとんど抜け落ちた眉の下で、老人の目が大きく見開かれた。老人は目の前の人物が信じられなかった。 「わしの、孫だと……?」  こめかみに老班が浮き、薄い眉毛と鉤鼻がついた顔。それは老人の顔と瓜二つだった。  男は笑った。 「そうだよ、整形したのさ。おれが脱獄して逃げ回っているとでも思っていたのか? しかし、まあ……あんたが保釈金を出してくれていれば、こんな計画は思いつかなかっただろうがな」 「計画じゃと? い、遺産は、一銭たりとも、ゆずらぬぞ」  老人は執事を呼ぶためのベルに手を伸ばした。だが男は素早くサイドテーブルの上からベルを取り上げた。
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