馳ぜて 溶けて 落ちる

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「今日一日、俺が彼氏で、菜乃が彼女」 「え、何言って……」 「菜乃が言ったんだろ? 俺みたいな彼氏がほしいって。やっぱ嘘だったの?」 「いや、嘘じゃない、けど……」 自分でも、ひどく馬鹿で滑稽なことを言っているという自覚はあった。 菜乃はいつものあの笑顔で、俺の提案を、「お兄ちゃんの彼女なんてやだ」と冗談にして流してくれると思っていた。 最後に残った線香花火に、火を点けた。 ぱちぱちと弾けた赤は、残り僅かとなった短い命を燃やしているような深い色をしていた。 ゆっくりと瞬きを繰り返す菜乃の瞳に、その赤い色が写り込んでいる。
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