最終章 ― 情愛 ―

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 賑やかなお客さんを見送るマスターは、 珈琲を点てる為、新しい豆を取り出した。 「あっ! マスター」  寿々は突然声をかけ鞄の中から小さな袋を取り出す。 「この豆で点ててもらってもいいかな?」  寿々が取り出した小さな袋、 タイミングを逃し、届けることができなかった 九州からのお土産。  それは、フリーザーにしまい込んだままだった、 土佐さんから頂いた、「土佐厳選幻の天使の涙」だった。 「あっ……」  その袋を手にしたマスターは驚きの表情を浮かべる。 「こ、これっ、何処で手に入れたんだい?」  普通では考えられない、一粒一粒手間暇かけ選び抜かれた綺麗な粒、 厳選された豆だけを集めた特別な幻のブランド「天使の涙」 そんな珈琲豆を焼く職人がいる噂をマスターは耳にしていたが、 30年以上お店をする中、手にすることは初めてだった。 「こいつは凄い。寿々ちゃん、申し訳ない。 私も一杯ごちそうになってもいいかな?」 「もちろん――」  寿々がそう答えた時、九州の言葉を耳にした奥さんが何かを思い出した様に、 一枚の絵ハガキを手渡した。  差出人は、蓮川美波……。 『あっ、あの時の』  九州鹿児島を上空から撮影した絵葉書。 そこに綴られた文字に目を向ける――。
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