次男・夏輝

7/12
2129人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
2度目の「ありがとう」があってから、何故か私はアイツを意識してしまっていた。 顔を合わせば、声を掛けてくれるんだけど。何だかばつが悪くて、目が合わせられなかったり、そっけない態度を取ってしまったり。 そんなある日、アイツがまた洗濯場に顔を出した。 「よう、」 「…おう」 目も合わさず、答える。すると彼は何も言わず、カゴの中のシーツに手を出した。 黙々と、作業を手伝ってくれている。私が何も言わないから、彼も何も言わなかった。 そして、とうとう最後の1枚になって。 それを取る手が触れ合った。 前にこうやって2人で洗濯をした日は平気だったのに。少女漫画でよくあるワンシーンみたいに、わざとらしく手を引っ込めてしまった。 顔が熱い。多分、赤面してしまってる…と思う。 「ご、ごめん…ちょっと、」 「ビックリして」って言おうとしたのに。その台詞は彼の声で止められた。と言うよりは、彼に手を握られたから、息が詰まって何も言えなくなった。 「山田、」 驚いて彼を見ると、見たこともないくらい真剣な顔をしていた。いつもヘラヘラして、意地悪を言ってたくせに。この前、「板長になりたい」って話をした時ですら、そんな顔はしてなかったのに。 「…次、そんな顔したら…どうなっても知らねーからな」 それだけ言って、彼は行ってしまった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!