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2度目の「ありがとう」があってから、何故か私はアイツを意識してしまっていた。
顔を合わせば、声を掛けてくれるんだけど。何だかばつが悪くて、目が合わせられなかったり、そっけない態度を取ってしまったり。
そんなある日、アイツがまた洗濯場に顔を出した。
「よう、」
「…おう」
目も合わさず、答える。すると彼は何も言わず、カゴの中のシーツに手を出した。
黙々と、作業を手伝ってくれている。私が何も言わないから、彼も何も言わなかった。
そして、とうとう最後の1枚になって。
それを取る手が触れ合った。
前にこうやって2人で洗濯をした日は平気だったのに。少女漫画でよくあるワンシーンみたいに、わざとらしく手を引っ込めてしまった。
顔が熱い。多分、赤面してしまってる…と思う。
「ご、ごめん…ちょっと、」
「ビックリして」って言おうとしたのに。その台詞は彼の声で止められた。と言うよりは、彼に手を握られたから、息が詰まって何も言えなくなった。
「山田、」
驚いて彼を見ると、見たこともないくらい真剣な顔をしていた。いつもヘラヘラして、意地悪を言ってたくせに。この前、「板長になりたい」って話をした時ですら、そんな顔はしてなかったのに。
「…次、そんな顔したら…どうなっても知らねーからな」
それだけ言って、彼は行ってしまった。
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