第2話 腐女子泣かせのアイドル

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音楽と食を楽しむライブハウス「インフィニティ・シンジュク」 今宵もひと時の音楽を楽しもうと、様々な人がやってくる。 新宿の片隅にある、こじんまりとしたこの店は、狭い雑居ビルの一階、中の見えない重たい防音扉の向こう側にあった。初めて足を踏み入れるには若干勇気のいる空間だ。 だがそこには、ビジネススーツ姿の男や派手にメイクを施した女の子たちが躊躇いもなく入っていく。 ギターケースを抱え、きちんと整った身なりの男子もいれば、派手な金髪を隠すようにパーカーを被り、背を丸くしてのろのろ歩くマスク男子も。 ここの客層は実に様々である。 そんなライブハウスの前で、数人の女の子たちがそわそわと時計を見つめていた。梅雨が近づくにつれ、日のある時間が長くなり、夜になっても外は明るい。 「よし、そろそろ行こう」 「今日はあの子たち、いるかなあ?」 「先週はテスト期間中だって言ってたじゃん。だから絶対、今週は来てるって。くーっ、高校生かわいいな」 「みて、私さあ、カツユキの推し色サイリウム買っちゃった」 「赤? やっぱそうだよねえ、白にするか悩んだんだけどさ」 「私はヒカルのー、緑だよ」 「あー、わかる! メッシュカラー」 「そろそろさあ、WINGSも公式グッズ出せばいいのにね」 「絶対売れるよねえ」 「でもまだそんなに……だしなあ」 「だからうちらが応援するんじゃん。行こう! 今日こそ二人に会えますように」 扉の向こうでは、既に鳴りやまぬ余韻が更なる音楽を奏で、最奥のステージを照らしていた。
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