第十五話「それぞれの思い」

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 さらに華枝は、初めて香代と会ったのが病院の屋上で、流産して子供が産めなくなった香代が自殺しようとしていたのを、たまたま華枝が発見して止めたということまで話した。  ある程度事情を察していた三人だが、香代の自殺未遂のことまではさすがに知り得ず、香奈は不憫な姉のことを思って思わず涙ぐんだ。 「……香代さんはその後も定期的に、花衣の写真と一緒に匿名で手紙を送ってくれました。こちらから返事をすることはありませんが、お陰で私は、花衣が小学生、中学生、高校生と立派に育っていく姿を、写真と手紙で知ることが出来ました……」  話す内に落ち着いて来たのか、華枝は涙を止めて淡々とした口調で話した。  しかしそこでまた、彼女はうっと声を詰まらせた。 「でもそのせいで、彼女はあんな不幸な事故に……」 「えっ……」  声を上げたのは香奈だった。 「不幸な事故って、もしかしてあの飛行機事故のことですか」 「そうです……。あの日、私は、搭乗前の香代さんに会ったんです。雨宮一喜さんをご存知でしょう。雨宮一砥さんのお父様です」 「し、知っています……」  香奈が答え、景一も神妙な顔で頷いた。花衣だけが微動だにしなかった。     
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