第十五話「それぞれの思い」

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 取り乱していた華枝だったが、景一の言葉に素直に頷き、「高蝶の家では代々、双子は不吉だとされていたんです」と内情を明かした。 「それで私が双子を妊娠したことが分かった途端、父に先に産まれた方を養子に出すよう命じられて……。私は初め拒んだんですが、産まれてきた子のせいでお家が傾いたらどうすると脅され、結局父に従うことにしました……。今思えば本当に、馬鹿だったと思います……」  華枝はハンカチを片手に握り締め、花衣の足元に座り込んだまま延々と話した。  産まれた子は最初、海外の養子縁組斡旋の会社に渡すつもりだったこと。  しかし入院していた静岡の産院で里水香代と知り合い、彼女の不幸な境遇に同情し、またその誠実な人柄を見て、どこの誰ともしれない相手に託すよりは彼女に預ける方がと思い、自分の独断で彼女に子供を渡すことを決めたこと。  後から知った高蝶泰聖が、弁護士を間に立てて香代と秘密厳守の契約を交わしたこと、その際に泰聖は、香代に口止め料として大金を渡そうとしたが、「華枝さんの宝物をいただいたのだから、これ以上のものは受け取れません」と香代がその金は受け取らなかったこと。     
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