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 私があの途轍(とてつ)もない―─あるいは恐るべき―─事件を体験したのは二〇一〇年十月六日から十七日にかけてのことだった。  あれ以来私は幾度もある事柄について自問し続けているが、納得のいくものは当然として、茫漠とした答えすら出せずにいる。  今一度、事件を確認し、考察するべく、そして何より、あの時私が知った知識を、確固たる意志のもと、一つ残らず忘却の彼方に追いやるべく、埃っぽい屋根裏部屋の、煌煌と青白く輝く星がのぼり、痺れるような冷気が休むことなく駆け抜けてゆく、南側の窓の傍ら、わなわなと手が震えるのをこらえながら、ほとんど狂人のたわごととしか思われないような突拍子もないことを書きつけている私なのだ。  これより先に記すことは──そう思われるのももっともだし、それを裏付ける証拠など何一つありはしないが──冗談、ましてや妄想では断じてない。そればかりか、読む者の心を確実に萎えきらせ、魂を新月の夜の海底の如き暗澹たる闇のただなかに、渾身の力で突き落すやもしれぬものであることを忠告しておく。  このことをはっきりと心の奥底にまで留め、刻みつけたうえで読み進めていただきたい。
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