第1章

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 それから、これが一番大事なことですが、絶対に単独行動をしないこと。必ず全員で行動してください。全員いっしょなら、万が一迷子になっても容易に探せます。カイさんに渡したトランシーバは、携帯電波の届かないところでも通話可能なので、何かあったら使ってください。質問はありますか?」  あんながこわごわ手を上げる。  「この森、危険な動物がいるんですか?」  鴎さんはあごに手をやって少し考えた。  「そうですね……そう心配するほどの動物はいないはずです。でも、慣れない土地の野外活動ですので、慎重行動するに越したことはありません。カイさん、ホスト役として皆さんをよろしくお願いしますよ」  「わかった」  少し緊張しているようだが、カイはきっぱりうなずいた。    最初はみんなも緊張してたみたいだけど、森は愛想よくあたしたちを迎えた。  しんと静まってはいるが、暗くはない。木々の間は適度に開いてるので、そこから真昼の光とすっきりした風が差しこむ。  「きれいだねえ」  「ほんとに」  あんなとエカキが、何度もため息まじりにつぶやく。  光の角度や木々の種類によって、葉や幹や梢はさまざま色や形を変える。さあっと急な風にあおられ、巨木から細かな黄色い葉っぱが降り注ぐ。光の束の中で光るそれは、まるでスポットライトに照らされた紙吹雪のようだ。みんな声も立てずに見とれる。  カイが先に我に返る。  「さあさ、下の方も見なくちゃ」  やっとみんなも本来の目的を思い出して、うつむいて歩き出す。  地面には、かさかさ落ち葉がすっかり敷きつめられている。ここからきのこを探すのはだいぶ骨が折れそうだ。  「あっちに苔がはえてる」  エースが指さした先には、ビロードのような緑が広がっていた。  あんなはしゃがんで、苔のくぼ地をながめた。  「ねえ、ここは小人たちの牧草地の丘だよ」  あたしも横にしゃがんでできるだけ低くながめた。  「ほんとだ、ペットボトルのふたくらいのパオが三つあれば完璧だね」  「うふふ、ねえ」  あんなはうれしそうに笑った。  そのくらい、あたしたちの泊まってるパオ村の景色に似ていた。落ちている小枝も、あたしのはまった小川とそっくりに曲がりくねってる。  しかし、ホスト役を任されたカイは現実主義者だ。  「うん、こっちの方が地面が湿ってるから、きのこがありそうだな」  エースを見てにこっとした。
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