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それから、これが一番大事なことですが、絶対に単独行動をしないこと。必ず全員で行動してください。全員いっしょなら、万が一迷子になっても容易に探せます。カイさんに渡したトランシーバは、携帯電波の届かないところでも通話可能なので、何かあったら使ってください。質問はありますか?」
あんながこわごわ手を上げる。
「この森、危険な動物がいるんですか?」
鴎さんはあごに手をやって少し考えた。
「そうですね……そう心配するほどの動物はいないはずです。でも、慣れない土地の野外活動ですので、慎重行動するに越したことはありません。カイさん、ホスト役として皆さんをよろしくお願いしますよ」
「わかった」
少し緊張しているようだが、カイはきっぱりうなずいた。
最初はみんなも緊張してたみたいだけど、森は愛想よくあたしたちを迎えた。
しんと静まってはいるが、暗くはない。木々の間は適度に開いてるので、そこから真昼の光とすっきりした風が差しこむ。
「きれいだねえ」
「ほんとに」
あんなとエカキが、何度もため息まじりにつぶやく。
光の角度や木々の種類によって、葉や幹や梢はさまざま色や形を変える。さあっと急な風にあおられ、巨木から細かな黄色い葉っぱが降り注ぐ。光の束の中で光るそれは、まるでスポットライトに照らされた紙吹雪のようだ。みんな声も立てずに見とれる。
カイが先に我に返る。
「さあさ、下の方も見なくちゃ」
やっとみんなも本来の目的を思い出して、うつむいて歩き出す。
地面には、かさかさ落ち葉がすっかり敷きつめられている。ここからきのこを探すのはだいぶ骨が折れそうだ。
「あっちに苔がはえてる」
エースが指さした先には、ビロードのような緑が広がっていた。
あんなはしゃがんで、苔のくぼ地をながめた。
「ねえ、ここは小人たちの牧草地の丘だよ」
あたしも横にしゃがんでできるだけ低くながめた。
「ほんとだ、ペットボトルのふたくらいのパオが三つあれば完璧だね」
「うふふ、ねえ」
あんなはうれしそうに笑った。
そのくらい、あたしたちの泊まってるパオ村の景色に似ていた。落ちている小枝も、あたしのはまった小川とそっくりに曲がりくねってる。
しかし、ホスト役を任されたカイは現実主義者だ。
「うん、こっちの方が地面が湿ってるから、きのこがありそうだな」
エースを見てにこっとした。
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