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俺達はちくわを連れて湘南の砂浜を散歩し、俺は渚とちくわと童心に返って無心に遊んだ。
渚とこの浜で素足で走り回れるのも、これでもう最後なんだな。
そう思ったら、心は押し潰されるほど寂しかった。
――午後9時、渚が寝ついたあと2人でバルコニーに設置された白いチェアーに座った。テーブルの上にはあの日と同じ赤ワイン。
俺は夜空を見上げた。
里央に逢いたい……。
もう一度この手で抱きしめたい……。
心の底からそう願った。
『今……逢いたいのか?』
『えっ……?』
不意に神様の声がした。
周りを見渡したが、神様の姿は何処にもなかった。
『神様?どこにいるんだよ?』
『いや……今日は姿は現さない。特別な夜じゃ。遠慮しとくぞ』
『何、気を使ってんだよ。隠れてないで出てこいよ』
俺は可笑しくて笑った。
『今夜どうしても、里央ちゃんに逢いたいんじゃな。まぁ、わからなくもないのう。最後の夜じゃ。夜景も気分を昂ぶらせるからのう。波の音もなかなかロマンチックじゃわい。よし……お前の最後の願いごとを叶えてやろう。わしからの選別じゃよ。んー…… エイッ!』
――月夜の下で……
俺の体は螺旋状に煌めく星に包まれ、キラキラと光った。自分の身に何が起こっているのか理解出来ない俺は、眩い光に思わず瞼を閉じた。
「……純?」
里央の声が鼓膜に届き、瞼を開く。
里央は立ち上がり、驚いたように俺を見ていた。
「純……なの?」
『里央……俺が見えるのか?』
「うん……見えるよ……。純が見える……」
里央は目に涙を浮かべた。
「逢いたかったよ。ずっと……純に逢いたかった……」
里央は俺に走り寄り、ギュッと抱きついた。
『俺も……逢いたかったよ。里央にずっと……逢いたかった』
力いっぱい里央を抱き締めた。
いつもとは異なり、手に力が入る。
ちゃんとこの腕で、里央を抱き締めることが出来るんだ。
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