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それでもライアンが再びマリンを「お姉ちゃん」「お母さんみたい」「大好きなマリン」と慕ってくれる事は、二度と無かった。差し出した玩具は無造作に捨てられていた。食べ物もろくに食べてはくれなかった。
それが今でも抜けない棘のような痛苦となって胸に残っている。二度と解決できない、悲痛な心残りだ。
仲間の全滅から三日が経った日の昼過ぎ、マリンはいつものように疲弊しながらもバックパックを膨らませて帰宅した。あの日以来、ライアンは決してマリンを出迎えたりはしなかった。部屋の奥で一人絵を描いて過ごし、マリンから与えられた食料を少量黙って食べ、マリンが何を話しかけても無視し続けていた。
だから、ライアンの名を呼び、返事が無くてもいつもの事だと思い、部屋の奥を覗いた。しかし、彼の姿は無かった。
青ざめ、部屋中の隠れられそうな場所を探し続ける。どの部屋にも見当たらず、焦りだけが募る。その時になってからアンネとデイルの墓を思い出し、身を翻した。
ちょうど、今と同じようにこの窓から外を見た。それは残酷な光景だった。最初は感染者がうずくまっているだけだと思った。そう信じたかった。しかし両親の墓標の前で感染者に押し倒され、ライアンは虚ろな視線を虚空に泳がせていた。飛び散る鮮血が墓標を濡らし、まるでそれが涙のように墓標を滴っていた。
よりにもよって両親の墓の前で。神すら死んだのだと確信した。
マリンの慟哭も届かぬまま、感染者は悠々と食事を終え、ライアンの小さな体から起き上がり、ふらふらと立ち去って行く。
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