第一章 荒廃

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今度はテーブルの上に立たせた二本の鉛弾を取り上げる。七・六二×五一ミリ弾。古い映画に出ていたような機関銃や、一昔前の自動小銃、それに猟銃などに使用される、強力でやや大柄な弾丸だ。その弾丸を持ったまま、壁の一角に進む。その壁には一挺の猟銃と、ブルックが使っていた鉈が掛けてある。どちらも重く、それを持ったまま物資調達に駆け回るのは苦しいので、ここでいざという時の為に備えてあるのだ。その、いざという時がこの家を敵に囲まれ、自分の命が最期になるのだろうと言う事は容易く想像できる。  猟銃を取り、弾倉を取り外す。五発まで装填できる猟銃には、一発の弾丸しか入っていない。入手した二発の弾丸を詰め、また装着する。安全装置を確認してから再び元の壁に戻し、マリンはソファに戻った。柔らかなクッションに腰を下ろし、埃っぽいソファに顔を埋めながらまどろむ。  ゴトン、という音で目が覚めた。物音に驚いて跳び上がった猫のように身を起こし、周りを見回す。薄暗いリビング。蝋燭の火は消えていたが、周りには誰も居ない。落ちついて足元を見ると、寝ながら手に持っていたウィスキーの瓶が、床に転がっていた。 「はぁ・・・」  瓶を拾い上げて食べかけのベーコン缶の横に置き、再びソファに身を委ねる。  時計を使わなくなって二年目だが、案外慣れた。午前三時過ぎくらいだろう。季節によって明るさも変わるが、その時によって体内時計は調節される。生物の中でもとりわけ五感が愚鈍な人間とは言え、利器を離れて生き抜かざるを得ない状況に陥れば、それは少なからず目覚めるようだ。目覚まし時計で起きていた頃は、起きてから必ず朝のコーヒーを飲んでいた。 「コーヒーが懐かしいな」  まだ銃では無くマイクを持ち、カメラマンやスタッフと共に、物資では無く視聴率を稼ぐために走り回っていた頃。
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