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落書きの汚れは数本線が入っただけものから、板全体をほとんど塗りつぶしたものまであった。
汚れてしまった部分に、上から元の色のペンキを塗り重ねていく。
しかし、作業は予想以上に難航していた。落書きの範囲は思ったよりも広範囲で、ただ塗り直していくだけでも時間がかかった。その上、使われたペンキは黒色だ。真っ黒になってしまった部分は、元の色はおろか下書きの跡すらも見えない。
下絵を描いて毎日作業をしていた私は別として、クラスメイトの大半は何をどう塗り直したらいいのか判断がつかなかった。
「一ノ瀬さん、これはどうすればいい?」
「そこは青色のペンキ重ねて。それで乾いたら上から……」
作業を開始して小一時間が経ったときだった。
「あーもうやってられねぇ」
遂に背後で苛立った声とともに大きな音が鳴り響いた。
「あ……ちょっと待って!」
苛立って大きな足音を立てながら去っていこうとする背中を見て、慌てて立ち上がる。
「無理だろ、こんなの。ちっとも進まねえし、やるだけ無駄だろ」
鋭い目が私を睨みつける。
「でも、ちょっとずつ直って……」
「ちょっとずつじゃ意味ねえじゃん」
飛んできた怒声に驚いて体を震わせる。
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