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青い空を見上げながら、私は先輩へ不安を打ち明ける。
「天音先輩は、悪夢にうなされることって、ありますか?」
「あるわねぇ」
先輩が優しい声音で、隣を歩む私に答えてくれる。
「例えば、どんな?」
「言葉にはしづらいけれど……試合に出たり、勝ったりするたびに、利き手や視界がどんどんふさがれていく、とかかな」
先輩の語る夢の内容は、私にも恐ろしく感じられた。
まだ試合にも出れない程度の腕前だけれど、そうなっては竹刀をどこにふるえばいいか、わからなくなってしまうだろう。
「見られるんですね、そういう夢」
「そうねぇ、ちょっと将来のことを考えたり……とかも、あるのかな?」
武道をたしなむ先輩は、日々の練習でひきしまった身体をしている。
でも、そのスマートな身体つきと調和するように、浮かべているのは優しい笑顔。
見るものを惹きつける華やかさから、先輩を嫌いな人はほぼいない。
言うなれば、ゲームのヒロインのような人だった。
正直、私なんかと比べて、将来への不安なんてないんじゃないかと想ってもいたけれど。
「天音先輩も、悩まれているんですね」
「あはは、当たり前じゃない。それで……あなたの夢も、そういった感じ?」
「ええと……」
少なくとも、進路や環境での悩み事は、私にはまだ現実感がなかった。
代わりにあったのは、最近よく見る、不思議な夢のことだった。
「そういう夢じゃなくてですね……」
「じゃあ、どういう?」
先輩の何気ない問いかけに、私は何度か口を開けて。
「……」
また閉じて。
そして、最後には。
「いえ、いいんです。なんでもない、忘れちゃいました」
想いきり、ふりきったように笑って、先輩へ謝った。
「そう? ……でも、困ったことがあったら、相談してね」
先輩の気遣いに、柔らかくうなずいて。
――昨日の夢で見た、先輩の冷たい顔を忘れようとした。
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