Part:『I184』

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 青い空を見上げながら、私は先輩へ不安を打ち明ける。 「天音先輩は、悪夢にうなされることって、ありますか?」 「あるわねぇ」  先輩が優しい声音で、隣を歩む私に答えてくれる。 「例えば、どんな?」 「言葉にはしづらいけれど……試合に出たり、勝ったりするたびに、利き手や視界がどんどんふさがれていく、とかかな」  先輩の語る夢の内容は、私にも恐ろしく感じられた。  まだ試合にも出れない程度の腕前だけれど、そうなっては竹刀をどこにふるえばいいか、わからなくなってしまうだろう。 「見られるんですね、そういう夢」 「そうねぇ、ちょっと将来のことを考えたり……とかも、あるのかな?」  武道をたしなむ先輩は、日々の練習でひきしまった身体をしている。  でも、そのスマートな身体つきと調和するように、浮かべているのは優しい笑顔。  見るものを惹きつける華やかさから、先輩を嫌いな人はほぼいない。  言うなれば、ゲームのヒロインのような人だった。  正直、私なんかと比べて、将来への不安なんてないんじゃないかと想ってもいたけれど。 「天音先輩も、悩まれているんですね」 「あはは、当たり前じゃない。それで……あなたの夢も、そういった感じ?」 「ええと……」  少なくとも、進路や環境での悩み事は、私にはまだ現実感がなかった。  代わりにあったのは、最近よく見る、不思議な夢のことだった。 「そういう夢じゃなくてですね……」 「じゃあ、どういう?」  先輩の何気ない問いかけに、私は何度か口を開けて。 「……」  また閉じて。  そして、最後には。 「いえ、いいんです。なんでもない、忘れちゃいました」  想いきり、ふりきったように笑って、先輩へ謝った。 「そう? ……でも、困ったことがあったら、相談してね」  先輩の気遣いに、柔らかくうなずいて。  ――昨日の夢で見た、先輩の冷たい顔を忘れようとした。
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