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「そのテレパシーの相手のこと好きなの?」
麻衣子はその言葉に一瞬頭が空っぽになりそうになりながらも、数秒後には我に返ったようにガバッと体を起こした。
その顔は彼女が小さいころに40度の高熱を出して倒れた時のそれと同じくらい赤かったものだから、母親はおかしくなって少しだけ噴出した。
と、同時にいつか自分が母に同じことを話したとき、いったい自分はどんな顔をしていたのだろうと、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちにもなった。
「お母さんにもあったわよ、そういうとき」
彼女はにっこりとわが娘を包み込むように笑ってそう言った。
驚愕のあまり目を丸くするわが子をよそに、彼女はつい昨日のことのように、あの時彼と交わした言葉の数々を思い出していた。
多分、文にすると何でもないようなことなのだろうけれど、それは彼女にとって人生の転機と言っていいほどの瞬間だった。
「お母さんが高校生のときね」
母親は意気揚々と話を始める。確か、自分の母親は秘密にしておきたいと言っていた気がするけれど、彼女はもうすでに友人にも話しているので、そこまでそのような欲求は大きくなかった。というよりむしろ話したかった。
まん丸に見開いた眼がまっすぐに自分を見つめてくるのがなんだか少し照れ臭い。
そんな中、娘の肩越しに見えた勉強机の上に置かれた給食袋。
そこに黒マジックで書かれた自分の文字「松田麻衣子」が妙に自分の心をくすぐるのをこの時の彼女は感じていた。
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