第6章 別れの追憶

27/30
219人が本棚に入れています
本棚に追加
/298ページ
「まーなっ…」 和希は葵から目をそらし、カウンターに向き直った。 葵がどんなリアクションをするのか、急に怖くなった。 「…そうだったんだね」 静かにイスが音を立てて、葵は立ち上がる。 「陣くんは、蒼麻さんのこと信じてたんだね」 一瞬、何を言われたのかわからなかった。 (信じて…た?) あの時、父親の傷口から絶え間無く流れ出る血を眺めながら、それでも助けを待った。 兄は来ると、助けに来ると、父親に言い続けながら。 「…大好きだったんでしょう?」 葵が歩み寄り肩に手を添えてきた。 「なっ、バカじゃね?んな、わけねーだろ!」 葵の手を振り払い和希は吐き捨てた。 「気色ワリィこと言うなっ」 和希は顔を赤らめる。 思い切り不意をつかれた。 本当に葵といると調子が狂う。 だけど接すれば接するほど、彼が惹かれる理由は納得してしまうことに和希は戸惑った。
/298ページ

最初のコメントを投稿しよう!