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密林の先で
遺跡の中をさまよって何日経つだろうか。
切り出した岩を積み上げ、模様がほられた壁。迷路のように続くここは、崩れかかって蔓が忍び込み、まさに映画で見たような場所だ。
日本を離れて数十時間。
たしかにフィールドワークには来た。
でもこんな場所を調査しに来たんじゃない。
迷い込んだ密林で謎の部族に追われ、矢の雨から逃げ続けて数日。やっと逃げ込んだここは快適で、水にも果物にも困らなかった。
快適だったが、今や出口も見つからない。
「あー。宝くじなんか当てるんじゃなかった。卒業旅行リベンジなんかするんじゃなかった」
「……10。黙れ何万回めニート。まだまっすぐだ」
「うるせぇお前もだろうが」
コンパスを持った仲間が、進んだ岩の数を言う。野帳を開いて、手作り地図に線を足す。
その作業だけが続けば、人間性も荒んでくる。
スマホはとっくにただの板になっている。照明も無い今、文明的な物は、水中でも書けるペンとこの一冊の方眼ノートだけだ。
「おい、来てみろよ!」
先を行く仲間が叫んだ。曲がり角の先から、明かりもれている。
出口か!
「3、4……ちょっと待て」
「真面目か!」
野帳を押し付けて走り出す。
呆然としている仲間に追いつく。
眩しくて先は見えない。
そして、仲間と同じように呆然とした。
さんさんと降りそそぐ日光。
広い空間。高い壁。
花で飾られた祭壇。
そこに遺影のように置かれた、古びた一冊の本。
「なんだこれ……」
日本語。
文庫本。
表紙には女の子がギリギリのファンタジー衣装で笑っている。
ラノベ……!
こんな所に。
やっとたどり着いた所に。
ひと昔前の大人気作品が…!
俺達は考える事をやめ、へなへなとくずおれた。
****
その後やって来た謎の部族達と共に、俺達は毎日祭壇で奉っている。
神が描かれた一冊の本を。
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