「さとう」の二人

1/16
695人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ

「さとう」の二人

時計の時刻は夕方七時前を指している。もうとっくに定時は過ぎた時間だ。 私は自分の仕事を片付けようと、考えを巡らせている。 今私が取りかかっているのは、とあるファッション雑貨ブランドのミニカタログ。二月のバレンタインに向けたカタログだ。 しかし…あまりいい案が浮かばなくて困っている。 かれこれ三十分程、筆は止まったままだ。 「凛、ごめん。ちょっと来て」 不意に呼ばれた方向を振り返ると‐陸がいる。 正直遠目から見ても、はっきりと端正な顔立ちがわかるのが少し悔しいところ。 ほんの少しウエーブのかかった黒髪に、切れ目の目元に眼鏡がよく似合い…『メガネ男子』という言葉そのものの人物じゃないかとさえ思ってしまう。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!