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「おかしいな? ストラップそろったのに、かなわない」
「願いごとは何よ?」
「今町が俺のことを好きになって、俺と付き合ってくれますように」
思わず「えっ」と言ってしまいそうになり、私は口を押さえた。殿村くんの願いごとって……そうだったんだ。
「それ、私に言うのは何十人目かしら」
「俺モテるけど、告白は今町にしかしてないよ? だから、生涯初なんだけど、これ」
ふたりの間に沈黙が流れたかと思うと、同時に「ハハハハ」と笑い合いはじめる。やっぱりふたりは息が合う。
「冗談にしか聞こえないわ。普段の行動から、信じろっていうほうがおかしいし。それに、和奈にアプローチしてたから、傷心中なんじゃないの? やけくそになってる?」
「今町が和奈ちゃんを大事にしてるから、好きな人の大事な人は俺も大事にしようって思ったんだけど」
頼子は、まるで信じられないもの見るような顔で殿村くんを見た。
殿村くんは、
「あれ? けっこう頑張ったのにな。それに願かけもしたし。なんで信じてもらえないんだろ」
と首を傾げている。
「そ……その他大勢の女子たちとの距離感がおかしいからじゃないの?」
「あぁ、だからやたらと俺につっかかってきてたわけ? やっぱりヤキモチじゃん。今町限定なら近付いてもいいの? そしたら信じてもらえる?」
頬杖の腕を倒して、頼子を至近距離で下から覗きこむ殿村くん。俯いている頼子の顔は、ここからじゃ見えない。
「まぁ、頑張るよ。本気で好きだから……て、あれ? 赤くなったの初めて見た」
「呆れと怒りよ。それに、頑張らなきゃできないにゃ、ぐ、んて」
「あ、噛んだ。可愛い。へぇ、そんな今町初めて見た」
途端に、頼子は教卓をバンッと叩いた。
「寄らないでちょうだい。頑張らなきゃできないなんて、ふざけてるとしか思えないわ。ていうか、なんで私?」
「なんでだろうね、よりによっての頼子ちゃん」
教室がしんとなり、笑顔の殿村くんと呆れ顔の頼子が無言で見つめ合う。
「笑おうよ、そこ」
「笑えない」
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