同じ目線で

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同じ目線で

 炎と煙に包まれた家の中から、真っ白い何かが飛び出した。  「どうだった?」  飛び出したのは一人の天使だった。上空で待機していたもう一人の天使に並んで、今出てきたばかりの家を見下ろす。  「母親はダメだ。ナイフで刺されて、逃げ出す力はもう残っていない」 「悪魔は?」 「それは始末した。取り憑かれていた父親はそれで正気に戻ったが……」  そこで、地上からざわっと人の声が上がった。炎の中から、人影が一つ外に出てくる。  「……父親だ」  血で汚れてしまった両手で、しっかりと毛布にくるまれた何かを抱えている。よく見ると、それは幼子だった。  父親はおぼつかない足取りで、火事に気付いて集まった人々に近付いた。  「すみません、この子を……この子のことをお願いします……!」  その身体を支えようと近付いてきた中の一人に、父親は抱いていた幼子を差し出して預ける。  それを大事に受け取りながら、年配の女性は尋ねた。  「一体、何があったんだい? 奥さんは……?」  すると、父親は一筋涙を流した。  「私は、取り返しのつかないことをしてしまいました……この子にも、寂しい思いをさせてしまう」  父親は優しい手つきで、ぐったりとして意識のない幼子の頭を撫で、額に一つキスを落とした。それから、幼子を預けた女性に視線を合わせて言った。  「申し訳ありません。この子のことを、よろしくお願いします……!」 「あんたはどうするんだい? この子を残して、あの炎の中に死にに戻るとでも言うのかい!?」  女性がそう言い、周りの人々もここに残れと父親を引き留めた。けれども、父親は首を横に振り、掴まれた腕を解いた。  「妻を……彼女を独りで逝かせる訳にはいきません」  父親はそう言うと、最後にもう一度子どもの頭を撫でた。  「愛してるよ、マリー。私たちの宝物……」  父親は泣きそうな顔で微笑むと、幼子に背を向け、覚悟を決めた顔で、燃え盛る炎の中に駆けて行った。  その姿はあっという間に赤い炎の渦に消えて、そのまま戻ることはなかった。  「……父親と母親のこと、頼めるか?」 「ああ。お前は?」 「もうしばらく、あの子供の様子を見ているよ」  二人の天使はそう話しながら、焼け落ちていく小さな家を見守っていた。
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