催眠

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 つれない態度を察したのか、和田は複雑な面持ちでスマホの写真を見せてきた。 「俺の妻の写真だ」  M氏は思わず吹き出していた。既に芸能界を引退しているが、誰もが知っている女優だった。そんな女性が和田の妻になっているはずがない。もてない男が妄想を膨らませて、いよいよストーカーとしての道を歩み始めたのだろうかと思っていた。  相手の反応を予想していたかのように、和田は薄笑いを浮かべながら次の写真を見せてきた。それは女優と抱き合いながらキスをしている写真だった。合成にしてはよくできているなと思いながら観察していると、和田は次々に写真を公開し、M氏の動揺を誘った。どう見ても女優本人にしか見えないのである。 「本当に結婚したの?」M氏の声は震えていた。 「羨ましいか?」和田は不揃いの黄色い前歯を見せながら引き笑いをしていた。  仮に女優にそっくりな女性と出会っていたとしても、和田にはあまりにも不釣り合いだった。一体この男のどこに惚れたのだろうか? 嫉妬に狂いそうになっていた。 「どんな弱みを握ったんだ?」M氏は挑発するように訊いた。 「催眠術を独学で身につけたんだよ」
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