催眠

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催眠

 M氏の古い友人に和田という男がいる。年齢は40代後半で、小太り。お世辞にもカッコイイと言えるような風貌ではない。体臭もある。幼い頃から内向的で友人が少なく、両親は彼を生んだことをひどく後悔していたという。  M氏が仕事の関係で雑居ビルに行った時のこと。最後の会社を回り、そのまま家路につこうと思っていた時分、偶然にも和田の姿をビルの中で目撃したのだった。十数年ぶりの再会だった。  和田はビルの中でマッサージ店を経営していた。日当たりの悪い簡素な室内には、薄汚いマッサージ用のベッドが1つだけ置かれていた。繁盛していないことはひと目で分かった。 「マッサージしてあげようか?」 「いや、いいよ。仕事中だし」M氏は即座に断った。シミの付いたベッドで横になるのはもちろん嫌だったが、和田の体臭が我慢ならなかった。適当に昔話をして引き上げるつもりだった。
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