通学路

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 以前その洋館には、N氏とその家族が住んでいた。N氏は都会の総合病院で医師を務めていたが、田舎の生活にずっと憧れを持ち、全く乗り気じゃなかった妻を無理矢理に説得して移住してきたのである。幼い娘は喘息持ちだったが、田舎で生活しているうちに回復していった。  家に診療所を併設すると、隣町まで足を運ばないと病院にかかれなかった村の人たちは殺到し、連日盛況だった。しかし都会で生まれ育った妻は村の生活に馴染めず、いつも愚痴をこぼしていた。  N氏は家の前に広がる荒れ地をタダ同然の値段で地主から買うと、引きこもりがちだった妻と一緒に農作業をする計画を立てていたが、妻は断固拒否した。 「そのうちに妻の気も変わるだろう・・・・・・」N氏は周囲にそうこぼしつつ、診療所が休みの日に一人で荒れ地に入ると、コツコツと開墾したが、妻は家の二階の窓からその様子を眺めるだけだった。夫婦の関係は日を追うごとに険悪になっていったという。
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