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だが彼の祖父は花衣の裏切りを許さないだろう。
剛蔵にも充分良くしてもらった花衣としては、彼の怒りを買った上で、さらに一砥との交際を強行する勇気はない。
(別れたくないのに……別れないといけないの……)
半日前の自分に、短気を起こすなと忠告出来たなら、と思う。
だがそれと同時に、結局自分が今いる道を選んだのならば、この道が正しい選択だったのかもしれないとも思う。
(結局、私には雨宮家の嫁なんて……分不相応なものだったのかな……)
剛蔵の米寿を祝うパーティーで、ずっと居心地の悪さを感じていた。
一砥と結婚すると言うことは、あの居心地の悪い場所に慣れなければいけないと言うことだ。
身の丈に合わない服を着て、舌に合わない料理やお酒を飲んで、気の合わない人達と上辺だけの付き合いをして……。
(やっぱり、無理だ……)
一砥のことは心から愛しているが、愛だけで彼の側にいられるとは思えなかった。
家政婦ならば、ただ住居を整え家事をこなしていればいい。
だが妻は違う。内でも外でも夫を支え、彼の助けになる存在でなければいけない。
真面目過ぎる花衣は、どうしてもそんな固定観念を捨てられない。
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