第十六話「ローマにて」

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 だが彼の祖父は花衣の裏切りを許さないだろう。  剛蔵にも充分良くしてもらった花衣としては、彼の怒りを買った上で、さらに一砥との交際を強行する勇気はない。 (別れたくないのに……別れないといけないの……)  半日前の自分に、短気を起こすなと忠告出来たなら、と思う。  だがそれと同時に、結局自分が今いる道を選んだのならば、この道が正しい選択だったのかもしれないとも思う。 (結局、私には雨宮家の嫁なんて……分不相応なものだったのかな……)  剛蔵の米寿を祝うパーティーで、ずっと居心地の悪さを感じていた。  一砥と結婚すると言うことは、あの居心地の悪い場所に慣れなければいけないと言うことだ。  身の丈に合わない服を着て、舌に合わない料理やお酒を飲んで、気の合わない人達と上辺だけの付き合いをして……。 (やっぱり、無理だ……)  一砥のことは心から愛しているが、愛だけで彼の側にいられるとは思えなかった。  家政婦ならば、ただ住居を整え家事をこなしていればいい。  だが妻は違う。内でも外でも夫を支え、彼の助けになる存在でなければいけない。  真面目過ぎる花衣は、どうしてもそんな固定観念を捨てられない。     
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