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「カエッ!」
甘いテノールボイスが自分を呼ぶ声に、花衣は立ち止まり振り向いた。
煉瓦色の髪と瞳の美青年が長い足で駆け寄って来て、笑顔で彼女の隣に立つ。
「君も今から戻るところ? あ、半分持つよ」
O-Cのローマ支社、デザイン部門で働くパタンナーのアランは、イタリア人らしいレディファーストの精神で花衣の荷物に手を差し出した。
大きな生地の巻物を抱えた花衣の手から半分どころかその殆どを奪い、アランはニッコリと笑った。
「ランチはもう済ませた?」
「うん。トトさんのバールで軽く食べたよ」
最近ようやく脳内で反芻せずとも出るようになったイタリア語で、花衣も気さくな笑顔を返し応じた。
初日に同僚達に連れて行かれた、日本で言うところのカフェに当たるイタリアのバールは、軽食中心の店からお酒メインの店、デザートが豊富な店と同じバールでもタイプは様々で、店主の愛称が「トト」のバールは、料理メニューが豊富な食事メインの店だった。
「駅前に新しく出来たバールにはもう行った? 値段の割になかなかの味だったよ」
「本当? じゃあ明日にでも行ってみる」
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