雲間より

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 ○  文庫本に挟んだチケットの半券。空港の窓口で変えた飛行機の行き先。会社の上司に送った休みの連絡のメール。適当に書いた理由はもう忘れた。数日だけど、でも、行くことに意味がある。誰にも正解なんて分からない。十年経っても変わらない彼は、十年経っても弱かった私のムカつく心に、きっとそんな風に声をかけてくれる気がした。彼は私にも、私以外の誰にでも、悲しいくらい優しかったから。  着陸が近づいたアナウンス。景色が随分低くなった。眼下に広がる青。水面はだんだんと透けていく。海の底に広がるサンゴの森が見えてくる。このままでは海底を突き抜けて、どこまでも行ってしまいそうだ。私が一人でこんな世界に向かっていることを、阿呆らしいけど、奇跡のように感じている。大人になれば誰でもできることなのに。  もうすぐ一番低い雲を抜ける。
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