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夕食を食べる気になれなかったから、先にお風呂に入らせてもらった。
どんなに熱いシャワーを浴びても、冷えた身体は温まらない。
マサくんは華絵さんをどんな風に抱いたんだろう。
行為の最中はやっぱり呼び捨てにしたんだろうか。『華絵』って。
想像したくないのに、二人がベッドで乱れる姿を想像してしまう。
止めようとしても止まらない涙がシャワーに混じって流れていく。
マサくんが浮気したのは、二年前のいつのことだろう? もしかして私が中絶したいと言った後?
あの時、彼は確かに傷ついた顔をしていた。それでつい魔が差して、他の女性に目が行ってしまったのかもしれない。
だとしたらマサくんだけを責められない。
それに、私だってマサくんにずっと隠し事をしている。
マサくんの子だとは言っていないけれど、中絶同意書に父親としてサインしてもらったし中絶費用も出してもらった。
――あの男の子どもなのに。
レイプされた後、すぐに病院に行ってアフターピルを処方してもらえば良かった。そして、マサくんに何があったのかを打ち明けるべきだったのだろう。
でも、あの時の私は家に閉じこもって、じっと痛みに耐えるので精一杯だった。あの男にバラバラにされた心と身体を、必死にかき集めて抱え込んでいた。
そうやってやり過ごせば、なかったことに出来るような気がしたから。
もちろん、それは間違いだった。
でも、誰しも常に冷静に物事を判断して、正しい行動を取れるとは限らない。むしろ間違ってばかりいるのが人間なのかもしれない。
マサくんも同じだ。
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