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「まったく、急に家を出たかと思えば急に帰ってきて。このあばずれが。タダで家に置いてやってるだけでも、感謝なさい」
「この家はアンタたちの家じゃない。マザーの家だ」
マザーの息子嫁である女は、マザーが亡くなった後、この家を支配している。
家の中を趣味の悪い派手な装飾に変え、マザーの持ち物は家以外、売り払ってしまった。
数少ないマザーの遺品は、この家には何もない。
唯一、残っている物といえば、まずいパイのレシピくらいだった。
最近分かった事だがマザーの息子だと名乗る男は、マザーに拾われた養子らしい。
(マザーも寂しかったのかな……)
エメラルドの都を追放され、マザーは一人で外の世界で暮らしていた。
一人寂しいマザーの気持ちを、あの男は少しでも癒していたのだろうか。
そう思うと、ドロシーは男に対しての憎しみが少しだけ和らぐ気がした。
「なんですって……! もう一度言ってみな!」
白粉を塗りたくった女の顔が、怒りで赤くなる。
「何度だって言ってやるよ。この家はマザーのものだ。お前みたいな業突く張りな女に、大事なパイ屋はやらないからな」
「ドロシー! 口のきき方には気を付けなさいと、あれほど言ったでしょう。忘れたの?」
「覚えてるさ。ただ、アンタの命令に従っていないだけだ」
ドロシーはぼろきれをまとい、立ち上がる。
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