【64】終

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「じゃ、行くか」  って、肘を突き出すので腕を絡めた。  コート越しの温もりを感じると胸の中まで温かくなるのは、一年経っても、結婚しても変わらない。 「……竜」 「ン?」 「……この間も話したけど、……やっぱり、まだ……もう少し甘えていたいというか……」  子供のこと。  母に言われるまでもなく、この人の年齢も考えたら早い方がいいとは思うのだけれど、……。 「何にも知らなかった頃なら違ったかもしれないけど、まだもう少し、って……考えちゃって」  この人の赤ちゃんに会いたい気持ちはある。  でも、わたしにとっては誰かを好きになる気持ちもまだ知ったばかりで、それも大事にしたい、と思ってしまう。 「ごめんなさい。まだ、あたしだけの竜で居て欲しいです」  彼は笑って、ぽんぽんと、わたしの頭に反対の手を置く。 「真面目な顔して何言い出すかと思ったら……それは無理しなくていいって、前も言ったろ」 「うん。……そうなんだけど、もう一年経つんだし……そろそろ考えなきゃいけないと思うんだけど、でもあたしにはまだ無理だなって感じで」 「いーよ。つか、逆に言えばお前まだ一年しか、……いや、付き合ってからだともっと短ぇな。お前、せっかくいい男と付き合って結婚までしたんだから、まだまだ甘やかされて楽しんどけ」  くしゃくしゃと彼はわたしの頭を撫でる。 「……とか言ってる俺も、まだ俺だけのお前で居て欲しいからな」 「……うん」  絡めた腕にぎゅっと抱きついた。 「……ありがとう」 「どういたしまして。……ところで、コンビニ寄っていいか?」 「いいけど、何……あ」 「なんだ」 「分かった気がする……」 「ラブホ置いてあるやつだとキツいからな。ゴム」  彼は笑って、わたしはその腕を叩いた。 『恋する気持ち~流れる川に浮かぶもの3』了
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