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体は軽い。何をやっても、これでもかというくらい集中できる。診察の勘も冴え、オペのスピードもいつもよりアップしている。やる気に満ち溢れ、今すぐにでも走れそうだ。看護師や技師にも「先生なんかスゴイです」と驚かれるほどだったが、心のどこかで満たされないものがあった。
惣太も伊武も仕事が忙しく、毎日会えるわけではなかった。一緒に暮らしたりも、まだしていない。会えないと分かっている日は朝から心がしぼんでしまう。そんな日は、いてもたってもいられず、忙しくするためにわざと仕事の量を増やしたりした。海外の論文や学会誌を読んだり、新しいオペの術式やアプローチを無理矢理ひねり出したりして、隙間の時間を埋める。そうでもしていないと伊武のことを考えてしまう。そして寂しくなってしまう。
不思議だった。
以前ならのんびり過ごしていたはずの時間を普通に過ごせなくなっていた。どんなふうに過ごしていたのかもよく思い出せない。
――おかしい。
心が通じ合ったはずなのに、また新たな恋の病に罹りつつある。
気持ちが落ち着かない。
伊武に会いたい。
薄暗い医局で一人、スマホを眺めた。
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