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「俺、33歳。転職するんだったら早い方がいい」
彼はそう言って笑った。
「後悔しませんか?」
私は滝さんに迫って問い掛けた。
「俺の1番の優先順位は家族だ」
滝さんはキッパリとそう言い切った。
「お前、近いから」
そう言われて、私は離れる。
奥さんを、子供を、1番だと言った滝さんが、カッコいいと思った。
そんな風に、彼に思って貰える存在になった癒し系和み女子の山口さんが羨ましくも思えた。
「…滝さん」
「お前もういいから、仕事しろよ」
滝さんはそう言って、またパソコン画面を開けた。
「倉吉君にですか?」
「…そう。まだ教えきれてないことあるから」
「いつ辞表出すんですか?」
また溜め息をついたけど、教えてくれた。
「明日くらいに内示があるだろうから、そうなったら出すよ。もしかしたら候補から外れるかもしれないしー」
「奥様知ってるんですか?」
「言ってない。今そんなこと話せるような状態じゃないから、うち」
滝さんはそれ以上何も話さなかった。
彼がタイピングする姿を暫く眺めて、私は席に戻った。
滝さんの家族でも何でもない私が、口出しすることではないのはわかっていた。
だけど、何だかとても辛かった。
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