俺たち、おしり調査隊

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俺たち、おしり調査隊

  「木ノ下くん、ちょっといいかな」  そう話しかけられたのはホームルームが終わったあとのことだった。  俺は一人教室で漫画を読んでいた。この後は部活があるのだが、部室にはギリギリまで行かないことにしている。うっかり入った部活がスパルタ系の吹奏楽部だったので、早く行くとその分自主練習をしなければならなくなるのだ。  声に振り返ると、後方の出入り口に立つ河野恭平と目が合った。  このクラスになって半年。彼は大人しいタイプの生徒で、話すのは初めてだった。 「え、何?」 「あの……ちょっとお願いがあって。誰のでもいいから、椅子を持ってきてくれないかな」  そう言うと、河野は半回転し俺に背を向けた。  そしてじっと壁側を見つめている。そんな彼を、俺はしばらくじっと見つめていた。  状況がよく分からない。椅子が欲しいとはどういうことなのだろう。  高いところに貼ってある掲示物の張り替えでもしたいのだろうか。それにしたって椅子くらい自分で持っていけばすむ話なのだが。面倒くさがりだろうか。  しかし、そう親しくもないクラスメイトからのお願いは断りづらく、俺はしぶしぶ自分の椅子を手に河野の元へと向かった。  しかし河野が途中で「あ、女子ので」と付け加えたので、俺は足を止めた。何故女子限定なのかさらに謎が増えたが、俺は自分の椅子を戻し適当な女子の椅子を持っていった。 「はいよ」  河野は向こうを向いたまま、手探りでその椅子に座る。その時、異変は起こった。  河野が突如、ぷるぷると震え出したのだ。  それは後ろから見ていても分かるくらいの振動だった。震度5くらいのリアクションだ。何事だ、と思い河野の顔を見ると、彼は何故かとてつもなく幸せそうな顔をしていた。  興奮しているのか、頭からほかほかと蒸気が出ている。恍惚としたその表情はまるで天に召されてしまったかのようだ。このまま昇天してしまうのかと思いきや、彼はほうと息を吐き、唐突に正気に戻った。  
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