プロローグ

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そう言うと香はまた井上の背中にもたれかかって携帯をいじり始めた。二人が所属する、S県警刑事部捜査一課が入る本部庁舎の近くにできたというスープカレーの店を詳しく調べているのだろう。 香はS県内の名家に生まれ、県下一の進学校から東大に入学し、東大卒業後は警察庁に入庁したキャリア警察官だ。両親は離婚しているが、裕福な母の実家でなに不自由なく育ち、成績優秀、高校時代はラグビー部で活躍するほどスポーツ万能、キャリア警察官でありながら捜査一課管理官として捜査現場でも凶悪事件解決に大いに貢献している。 なおかつ、芸能人にもなれるほどの美貌を持ち合わせている。香とよく似た兄は俳優をしているぐらいだ。 井上はゲームの中で激しい戦闘を繰り返しながら、どう考えてもこの人にこの部屋は似合わない、という切ない思いとも戦っていた。 井上は去年離婚してから、S県内の本部にも近いアパートで一人暮らししている。自分には十分すぎる部屋だが、都内の警察庁にも近い一等地の富裕層向けマンションを所有する香には、相当手狭に感じられるはずだ。井上は香のマンションを何度か訪ねたが、井上のアパート一部屋が、香のマンションのリビングダイニングに収まってしまいそうだった。     
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