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タツ兄《にい》のトラック
タツ兄は、松野辰也という名のおじさんだ。
無精者でやかましいから40半ばを過ぎても独身で、宅配トラックのドライバーをしている。
私が運転していると、助手席のタツ兄が、すっとんきょうな声を上げた。
「なんだ、このシール。みょうに可愛らしいおまけが付いているじゃねえか」
「コンビニのおにぎりに付いている、40枚集めれば景品と交換できるシールですよ」
そう説明するとタツ兄は、へええ、そうかい、と興味なさそうにあいづちをうった。
「おれにゃあ縁のない代物だ」
私がどうしてかとたずねると、タツ兄は眉間と鼻にしわを寄せた。
「どうせ酒には交換できねえんだろ」
シールをダッシュボードに貼り付けながら、ほほを膨らませる。やや不満げだ。
配達先の近くで車を停めると、タツ兄は助手席から降りて荷物を台車に移し始めた。
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