1 五歳年下の上司

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1 五歳年下の上司

 彼女はパートタイマー雇用で、俺より五歳年上。離婚歴があり、小学生の男の子ふたりの母親。どんな雑用でも、嫌な顔をせずにやる。他の女性社員が嫌がるお茶汲みにも文句を言わない。大学中退で社会経験もあまりないけれど、事務仕事には十分なパソコンの知識と、早くて正確なタイピング技術を持っている。  女性社員は寿退社が当たり前のようになっているうちの部では、年に五・六人の女性が退社し、毎年五・六人の女性が入社してくる。だから、若い女性が多い。  他の男性社員はどうか知らないけれど、俺は大した仕事もしないで飲み会だけは張り切る女性に嫌気がさしていた。  そんな中で、彼女だけは仕事に真面目に取り組んでいて、特に優秀だった。  俺に人事の権限があったら、間違いなく正社員として雇用している。  彼女は社内の女性たちとは親しくないようで、昼食も自分のデスクで手作り弁当を食べる。昼休みに電話してくる取引先もあるから、デスクにいて取り次いでくれるのは助かる。  彼女は最低限の化粧しかしていない。瞼が青かったり茶色だったりしない。恐らく、ファンデーションと薄い色の口紅だけ。軽くうねった髪も、無造作に束ねている。  仕事中、愛想よく微笑むことはあっても、笑っている顔は見たことがない。他の女性社員は昼休みや仕事の合間に雑談をして大口で笑っていたりするけれど。  俺がこんなに彼女をよく見ているのは、俺の部下で、優秀な人材だから。  この瞬間までは、本気でそう思っていた。 
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