左耳と嗤う女

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 私、実家に帰ったほうがいいんでしょうか?  耳をなくした場所だから、嫌になって逃げたのに。  あいつは今でも、あたしに言うんです。  お友達になって、仲良くしてって……。 「ねえ、お姉ちゃんもいっしょに行こう。○○ちゃんも、みんなで行こう」  ○○ちゃんとは、女の名前だろう。くぐもっていて、聞き取れない。  さっきから、左耳が痛い。耳の奥で羽虫でも暴れているような、じいじいという耳鳴りがする。  傍らには、見知らぬ少女が佇み私を誘っている。  あなたは、あなたは今でも……。  待っているよ、おうちで、みんなで遊ぼう。  左耳に、激痛が走った。吐き気もする。    目の前でコーヒーをすすり、タバコをふかす女は、心配そうにしながら唇をゆがめ、嗤っていた。
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