浅葱色の羽織を着る者

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私が見る夢は、まるで平安神宮や京都御所のような場所で、平安装束を着た人達が桜や橘を見て、和歌を詠んでいた気がする。 それも夢の中の出来事だから、私が勝手にイメージしているだけかもしれない。 だけど、妙にリアルで私がそこに存在していたかのようで、目が覚めると懐かしくさえも思えてくるのだ。 私の旧名は藤原佐理。 平安時代に生きた公卿の藤原佐理(フジハラノスケマサ)と読みは違えど同じ名前だ。 三跡の一人として活躍し、字が綺麗だったらしい。 私の夢とこの歴史人物に何か関わりがあるとすれば、彼は私の前世の人なのだろうか。 そうとしか今は考えられない。 『眠っている間、私は四年間、幕末で過ごしていました』 琥珀さんが幕末にタイムスリップした話を思い出した。 最初は、ありえないと信じていなかったものの、彼女の話を聞いているうちに信じざるを得なくなり、今は彼女の話を信じている。 「まさか……私も」 ベッドに座ったまま、一人顎に添えて首を傾げた。 もし私が幼少期に平安時代へタイムスリップし、しばらくの間過ごしていたと考えると、現代では神隠しにあった子ども扱いに? 本当の両親が分からないのも私が神隠しに遭って、行方不明扱いにされたから? 違う。 たとえ子ども頃に平安時代へタイムスリップして、藤原佐理として生きていたとしても性別が合わない。 藤原佐理は男のはずだ。 私の考えはすぐに否定された。 溜息を吐いて、首を振る。 写真を一瞥して、自分はいったい何者なんだろうと思い始めた。 本当の両親は、私のことを覚えているのだろうか。 肩をすぼめた私は、泣きそうになる気持ちを何とか堪えると腰を上げた。 お風呂に入ろう。 明日もまた仕事があるーー。  
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