望まれていないお約束

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望まれていないお約束

「今日も一日ご苦労だったな。きゅーちゃん」  王子の寝室、ふかふかベッドの上にて、私は相変わらず思う存分モフられています。  顔は狐に似ていると言われた私ですが、ほっぺたはもちもちしているのでなかなか触り心地の良いスポットの一つらしく、王子は日課が終了したときや私を褒めたくなったときに、この部分をぐにぐにしたがるのです。  近頃の私の寝床は王子の枕の隣に備え付けてある私専用クッション。  さすがに掛け布団の中に潜り込むことは自重してお断り申し上げていますが、目覚めの挨拶に顔に優しくタッチングすることはもはや私の職務の一貫になっていました。  それにしても、お会いした当初は本当に整ったご容貌ながら、たとえるなら研ぎ澄まされ触れれば切れる刃物みたいなお方で、デレ声を上げられる度に密かに鳥肌を立てていたぐらいでしたが、近頃はそんな王子もとんと雰囲気が丸くなりまして、赤い目も怖いと思う事が少なくなってきましたこと。  モフり方も当初のような余裕のない、獲物逃がさぬというばかりの強引なものでなく、相手を思いやりながらほどよく圧力をかけたるその様はまさに愛撫と描写するのが最適かと。     
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