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今のうちに、気持ちを全部伝えておきたかった。
「ひどい仕打ちだなんて思ってないよ。だってあれは、全部蓮の優しさじゃない」
あんなことをしたのに、綾は許してくれる。
付き合ってる頃から、綾のそんな懐の深いところが好きだった。
「でも、泣かせた」
「泣いたけど、その後のフォローは完璧だったじゃない」
綾が怒っていないことは、俺をとても安心させた。
俺の選択に間違いはなかったと、改めて思った。
「そっか。そうかもな。
ごめん綾、ちょっと、眠いかも」
身体がフワリと浮き上がる感覚がした。
眠りに入る直前の、あの幸せな感覚。
「今日はずっと起きてたから疲れたんだよ。寝たほうがいいよ」
いつものようにそっとキスをされて、俺は穏やかに眠りについた。
とても気持ちよくて、ふわふわと身体がどんどん上に上がっていくみたいだ。
綾。
最後まで俺のそばにいてくれてありがとう。
目が覚めたら、改めてお礼を言おう。
そして、もう一度愛を告げよう。
綾、愛してる。
この世の何よりも、誰よりも。
君と出会えたことは、俺の人生の中で最高にハッピーなことだった。
君に出会えた、そのことだけで、俺の人生には意味があったんだと思える。
惰性で生きていた俺に、生きる楽しさを教えてくれた。
俺が生まれてから今日までのことが映画を見ているように映し出されて、ああ、これが走馬灯っていうやつなんだな、と思った。
じゃあ、俺はもう目覚めないのか。
もう少しだけ、綾と話したかったな。
俺が死んでも、いつでもそばにいるって、伝えたかったな。
最後の瞬間まで愛してたって、伝えたかったな。
ああ、でも。
最期の瞬間が綾のキスで、幸せだった。
ありがとう。
ありがとう、綾。
いつかまた生まれ変わったら、君と結婚して、温かな家庭を作りたい。
そして、おじいちゃんになったら、今日みたいにキスをして見送って。
また君と出会える日が来るのを、ずっと、待ってるから。
綾。
愛してる。
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