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第1話 芽吹く悪の華
西日本の小さな港町の小さな教会が私の職場であり、住まいである。
子供達が教会の敷地内にある庭で遊び、その光景を眺める祖父母や母親達。
最近では男の一人暮らしを憐れんでか、作りすぎたのだと言って、よく煮込まれた肉じゃがや売り物には少し小さい魚の一夜干しなどのお裾分けまでしてくださる温かい人々の住む町だ。
「信者でもないのに、お庭使わせてもらって申し訳ないけ」
「そんなの良いんですよ。みんなが楽しめる場所の一つに選ばれたのなら、私は嬉しいです」
「それでも、神父さんも忙しいじゃろうに遊んでくれたりするけ、やっぱりこれは受け取ってもらわんと困る」
そう言って私に紙袋を押し付ける御老人は、それほど熱心ではないものの先祖代々仏教徒だそうだ。だが、新年には神社へ初詣に出かけるし、クリスマスには孫におもちゃとケーキを買うのだと言って肩をすくめた。
「それで良いと思います。子供の笑顔を咎める神様は要らないでしょう」
「こりゃ驚いた。勧誘すらしてこん神父さんじゃと思っとったけど!」
「とんだ不良神父でした?」
私を見上げる小柄な御老人と顔を見合わせる。吹き出したのはほぼ同時だっただろう。
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