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病棟の至る所からサイレンが聞こえて来る。おそらく白衣を着た人たちが血眼になって逃げたロボットを探しているのだろう。これで捕まったら、いよいよ分解されてしまう。俺は見え切った未来を悟って静かに目を閉じた。 そのときだった。 後ろから俺の胴体を何かが覆った。 俺は初めて渚に抱き締められた。それはさっき腕を掴まれたときよりずっと弱い力だったし、その細い腕で俺全体を包むことは出来なかったようだが、俺の心はしっかりと掴まれている気がした。 渚が何も言わない分、沈黙は苦し過ぎた。俺は口から何か出さないとパンクしそうだったが、口は想像以上にポンコツで、言葉のひとつも出て来なかった。 「何も喋らないで……」 すると、何かを察した渚は呟いた。 「余計分からなくなる……」 そして、両腕にふたたび力を込めていった。外の空気は昼間と思えないほどひどく冷え切っていたが、彼女の体温はじわじわと俺を侵食していった。いくら抱き締めても未来は変わらない。だが、俺は1分でも1秒でもこの時間を感じていたかった。
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