フォトジェニック・ラブ

2/27
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 映画館に着くとチケットを購入し、もいでもらうと上映会場に入った。私は客席を眺める。観客は私を含めふたりだけ。ひとりは入口にぽつんと座っていた。確かにこの映画館は小さく、マニアックな作品しか上映しないし、平日の早い時間で観客は少ないだろうと予想はしていた。しかし私を含めてふたりだけとは思わなかった。上映開始のため暗転すると、私は忙しなく席についた。そしていつも通りに映画を観るために目を閉じる。  エンドロールが流れ終り、会場の明かりがつくと、魔法が解けたように現実の時間が押し寄せてくる。私は腕時計をはめ直し、携帯電話の電源をオンにした。会場は観客が少ないせいか、冷房のせいか、真夏なのにひどく寒くて私の身体は冷えきっていることに気づく。映画館を出たら、温かいカフェオレでも飲もうと席を立った。  もうひとりの観客はいまだ明るくなった今でも、座ったままだった。ショッキングピンクのTシャツを着ていて、私より五、六歳くらい若い女性だ。黒く長いであろう髪を後でおだんごにしている。大きな目をしていて、瞬きを忘れたようにスクリーンを見つめていた。はっきりと言うと私の好みの女性だった。彼女と喋ってみたい、という欲望が私の中で生まれる。彼女もきっと映画が好きなはず。けれども若く可憐な女性には似合わない映画だったからだ。つい私の好奇心がもたげる。     
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!