フォトジェニック・ラブ

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 そのあと私たちは映画を一本、観た。私は昼食にスパゲッティ・アラビアータを作ろうと思った。辛いもの大丈夫かな、と私が奏に尋ねると、眉間にしわを寄せて食べられます、と言うのだから、私は笑ってしまった。あからさまに不機嫌になった奏は、お昼ごはんは私が作ります、と言って台所に立った。奏の作ったカルボナーラはとても美味しいとは言い難かった。キッチンの勝手が違くて、うまく作れませんでした、と目を伏せた。 「美味しいよ。奏が初めて作ってくれたんだもん。写真を撮っておけば良かった」 「今度は失敗しません」  そんな健気なことを言うのだから、私は思わず奏にキスを仕掛けそうになった。しかし思いとどまって、奏にほほ笑んだ。  私と奏はまだキスをしていない。十八歳になって、高校卒業するときまで取っておこうね、と私は奏に言った。齢三十を過ぎて、何を純愛ぶっているのか、と真希子あたりに言われそうだ。しかし奏を飽きたら捨てるダッチワイフのように扱ってきた男とは違う、ということを私なりに奏に示したかった。あなたのことがとても大事なの、と。それに愛情の示し方なんて、くちづけ以外にも、たくさんあると私は経験から知っている。  奏は私に抱きついて、再び額を肩口にグリグリと押しつけた。まるで絵に描いたような幸せな休日。しかし楽しい時間はあっという間に過ぎ、八時前に奏は言った。 「帰ります」 「駅まで送るよ」 「目と鼻の先じゃないですか」 「でもさ」 「じゃあ、抱きしめてください」     
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