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口にするのは恥ずかしい
「じゃあ、まだやってなかったんだ?」
平日午後のオシャレなカフェの二階に、蓬莱周の頓狂な声が響く。
女子学生が大半を占める店内で、男性二人の客は無駄に悪目立ちしているうえに、蓬莱は地声が大きい。
「しーっ! 声が大きいですよッ!」
白井陸ことリックは、慌てて唇の前に指を押し当てた。
甘いものに目がないリックは通学路にあるカフェが気になっていたが、一人で入る勇気はない。
不定期に平日が休みになるという蓬莱を誘って、ようやく入店してみたものの、予想以上に周囲から浮いた客となっていた。
名物のパンケーキは文句なくおいしい。
きめ細かい生地はふわふわで、口に入れると儚くとろける。ホイップされたバターにレモン果汁と粉砂糖が混ざり合って、飽きのこない上品な甘さがあとをひく。
が、あたりを見わたして、連れに蓬莱を選んだのは間違いだったと、ようやく気づく。もっとも、リックには気軽にお茶に誘えるような女友達など皆無ではあるが。
「そうかあ? 別になんの話かなんてわかんないじゃん」
「そういうことじゃなくって!」
「いや、俺はもう、リックと鳴上さんは、てっきりそういう関係だと思ってたからさ」
「だから、そうなんですって」
消え入りそうな声で告げるが、蓬莱は大きく首をかしげて聞き返す。
「え? そうって、どういうこと?」
「ついこの間までは、その、なにもなかったんです」
「ああ、そういうこと? あー、ついに片思いが叶ったってことだよな。よかったじゃん。おめでとう」
「え、あ、ありがとう?」
とまどいながらも、感謝を伝える。蓬莱はコーヒーカップを手にして、まじまじとリックの顔を覗きこんだ。
「だって、鳴上さんのこと好きだったんだろ? 好きなのに、一緒に住んでてなーんにもなかったから焦れてたんだろ?」
「だから、声が大きいのやめてくださいってば! それに、別に、その、焦れてたってわけじゃなくて」
「いや、ヤキモキはしてったしょ。まあ、その気持ちはわかるよ。鳴上さんって、カッコイイもんな。なんかこう大人の余裕っていうか、色気っていうか。俺らには逆立ちしてもかなわない、そういうところあるもんな。男女問わず、めっちゃモテそう」
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