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君という名の優しい世界
「ところでハニー、日本にはヒメハジメというものがあるらしいな」
目を輝かせながら、彼が言った。
蕎麦とコタツと伝統的歌番組。しまいに着物。日本の年越しを体験したいと言うからアレコレ支度して、いざ大晦日の夜になっての一言がそれかい。
「どこでそんな言葉覚えたんだよ……」
本当にこいつ緊張感のカケラもない。俺ですら年越しの厳かな気持ちでいるってのに。
「ほら、いいからテレビ見てろって。この歌手好きだっつってたじゃねぇか」
奴を掘りごたつに残して、俺は蕎麦の準備に大わらわだった。
それにしても奴の徹底ぶりはすごい。今日のために、マンションの別フロアにある我が家が、たった数日でまるまる本格的な和室に改装されてしまった。和室っていうか茅葺き屋根の家の中っていうか。それこそ新婚旅行で行った旅館みたいな内装になってしまった。
壁をぶち抜いて床を張り替えて、見てるこっちがヒヤヒヤするほどの大胆な改装ぶりだったけど「なぁに、オーナーとキチンと話をつけて来たから安心しろ」とウインクされて終わってしまった。まぁ、和室も居心地いいからいいけどさ。
そして俺に与えられたのが、白い割烹着と白い三角巾。
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