520人が本棚に入れています
本棚に追加
/468ページ
1.冷めた目
宗田家に生まれた子どもに付けられた名前は「花」だった。
代々伝わる名家。花の曽祖父は舞踊家。曾祖母は華道家。祖父は舞踊家から転じて能を舞った。祖母は茶道家。
そして花の両親。
宗田家の一人息子、超愛。字のごとく、人並外れた才能とたっぷりの愛を持っているが、これまた字のごとく世俗を逸脱している……と言えば聞こえはいいが、要するに飛んでる男だった。
この名前を付けた祖父母もしかりだろう。
その超愛に嫁いだ母、夢。
名前通り、夢見心地で常に物事を明るくとらえ、悪いものには目を向けない。現実感の無い女性。
超愛は画家だ。夢はピアニスト。
華誕生時の超愛は19歳。夢は17歳であった。世間を知らない無垢な父と母。
宗田家の不思議なところは、芸術一家であるにもかかわらずあまり代々の芸術を引きずらないところだ。舞踏家なら跡継ぎも舞踊家にしそうなものだが好きなことの能力を伸ばしていく。自然、世の中の流れに疎い一家となっていく。
父は美しく、母は愛らしかった。二人に生まれた赤ん坊は二人の美の結晶のようだった。
「まあ! 花のようだわ!」
生まれた我が子を見て口にした夢の言葉が名前を決めた。画家の父も美しいものばかりを描く。花とは、すなわち美しいものだ。何の抵抗も無かった。
最初のコメントを投稿しよう!