最終章 付きまとう影

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「私、逆にこのチャンスを生かしたいと思う」 「チャンス?」 「シリアルキラーを捕まえるチャンスよ!」 「はあ?」 「私が、一旦、実家に帰って囮になって犯人をおびき出すの。それで犯人が特定できる。いいと思わない?」  小箱がとんでもない提案を出してきたので、和寿は断固反対した。 「それはやめろ」 「どうして? 私、絶対に犯人を捕まえて那由の仇を取りたい。それに、こんな奴をこれ以上自由にさせていたら、また被害者が出てしまうでしょ」  正義感には感心するが、和寿は小箱の心が心配だった。 「小箱は、犯人に対しておおきなストレスを抱えている。ここの住所を知られていないというのに、毎晩仕掛けるトラップがその証拠。その理由は、君の心の中にある恐怖を押さえるためだ。あれがないと安眠できないんだろ? 自分で気づいてないのか?」 「………………」  小箱は黙ってしまった。 「もし、ここが知られたら、即座に引っ越す。犯人を捕まえることも大事だが、身の安全が最優先だ」 「………………」 「犯人は、必ず化けの皮が剥がれて捕まる。それまでの辛抱。絶対に、自分から犯人に近づくんじゃない」 「わかった。それはやめる」 「約束してくれるな。勝手なことをしないと」 「約束する」  小箱は、渋々ながら約束した。 (やれやれ……)  小箱の無鉄砲さにいつも振り回されるが、今回ばかりは静かにしてくれると約束してくれた。 (――とはいえ、一安心とはまだ言えない)  小箱が素直に聞くとは、和寿にはとても思えないのだった。  小箱に元気がない。少し疲れているように見える。  明日は学校が休み。  小箱の気が晴れるよう、自分が料理を作ってはどうかと思いついた。  和寿にとっても気分転換になる。 「小箱、明日の夜は俺が料理をつくろうか」 「コンビニ弁当じゃないの?」  小箱は、連続コンビニ弁当の呪縛にまだ取り憑かれている。 「それは忙しかったらで、時間があれば多少は作るよ。レパートリーは少ないけどな」 「じゃあ、お願いする。何を作ってくれるのか楽しみだわ」 「明日は何かの特売日?」 「明日は、特売日じゃないわね」 「それは、残念」  買い物しながら考えることにした。
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