六文銭の十本刀/序

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 ――それから数日後。  旧臣楼周辺。数日前と同時刻。  粗野な着こなしに帯刀した男が数人。提灯を持っている男を先頭に、旧臣楼から出てくる。彼らはなにも語らず、ただ同じ方向へ歩いていた。  ふと、不自然な一陣の風が。木々の葉がざわめく。  嫌な風だ、と誰もが思った時だった。 「ぎゃあ!」  悲鳴とともに彼らを導く灯火(ともしび)が消えた。辺りは真っ暗でなにも見えない。風が止んだ途端、短い悲鳴があちこちで聞こえ、どさどさとなにかが倒れる音が響く。  ――動けば、やられる。  残された男は思った。警戒し、構える。だが、共にいた仲間の命を奪っていった風は、無慈悲にも男の命を奪い去る。あっけない最後であった。  雲に隠されていた月が顔を出す。  月の光に照らされ、ただ立つそれは黒い忍装束を身にまとい、黒頭巾で顔を隠していたが、瞳だけは隠していなかった。いや、隠せないといったほうが正しいだろう。  空に浮かぶ月に対し、その瞳は朝焼けの太陽であった。
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