序章:始まり

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序章:始まり

  お笑い、と聞いて真っ先に思い浮かぶものは何だろう?  お笑い芸人? バラエティー番組? スマホで見られるおもしろ動画、なんてものが浮かぶ人も、居るかもしれない。  きっと、人によって頭の中に思い浮かぶものは様々だろう。  私の中に真っ先に浮かぶもの。それは『寄席』。  今ではめっきり数を減らしてしまったけれど、それでも江戸時代から今に至るまで寄席は様々な人々に守られ、その姿を残している。最も、寄席が出来たのは江戸時代という話だが、落語は戦国時代の後期辺りから源流があるというのだから、驚きだ。  そんな寄席と落語に欠かせないものが、お囃子。大抵の寄席には、必ず太鼓と三味線の音色が響く。  演者の出番前に演奏される出囃子や、紙切り芸の最中の賑やかし、落語の最中の演出的BGMなど――お囃子が寄席で担う役割りは多様にして重大。  そして、そんなお囃子の端くれが、私である。  祖母の影響で幼い頃から三味線を続けていた私は、祖母から教わった特技を活かして、寄席の三味線奏者、下座の仕事をしている。  とは言っても、まだ駆け出し。技術も経験も、先輩方の足元にも及ばない。少しでも早く一人前の下座として働けるようになるために、今日も今日とて修行の身である。  ――これは、そんな駆け出し下座の私に起こった、なんとも不思議な寄席のお噺。
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