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あなたに髪の毛ありますか
父の姉――伯母が急死した。まだ50代だった。
報せを聞いた私は両親とともに伯母の家に向かった。
伯母の夫である伯父さんは、痛々しいほどにやつれていた。
最愛の人を突然亡くしたのだ。
冷たくなった伯母を呆然と見つめる後ろ姿が悲しくて堪らなかった。
そういえば伯父と伯母の間には一人息子がいたはずだ。
伯父が「ユウタ、挨拶くらいしなさい」と奥の部屋に向かって声をかけた。
襖の奥から顔を覗かせた男に私は絶句した。
まるで落ち武者のように薄い頭髪を肩まで伸ばした男は、こちらに向かってブツブツと何かを言い続けている。
睨み付ける白目は濁り、薄い髪はギトギトの束になっていた。
途端に辺りにすえた刺激臭。獣臭さにも似た、脂の腐った臭い。
もしかして風呂に入っていないのかもしれない。
気持ちが悪くて吐きそうだ。
私は思わず顔を背けた。
男はぴしゃりと襖を閉めて部屋に引っ込んでしまった。
「い、今のは……」
父が伯父に問いかけた。
伯父は力なく笑い「息子のユウタですよ」と掠れた声で言った。
あれは伯父と伯母の息子――私の従兄弟にあたる――だと理解するのに時間を要した。
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